仮名音読が他の発話モダリティより比較的保たれた Wernicke 失語例1例に対して,3種の発話モダリティ (復唱,仮名音読,漢字音読) を刺激モダリティとして呼称訓練を行い,呼称促進効果の違いを比較した。 その結果,仮名音読はつねに呼称を促進し,漢字音読は単語によって呼称を促進した。しかし,復唱は呼称を促進しなかった。 刺激法による言語治療では聴覚モダリティに対する刺激がもっとも重要とされている。しかし,本研究の条件下では呼称を促進したモダリティは復唱ではなく,仮名音読と1部の単語での漢字音読であった。本症例での呼称促進効果のメカニズムについて考察し,さらに失語症言語治療におけるモダリティ別の障害メカニズムの分析と刺激モダリティ選択の重要性について論じた。