超皮質性感覚失語の症例の発語にみられた特異な錯語について報告した。症例は47歳の右利き男性。頭部外傷による脳挫傷, 硬膜下・硬膜外血腫の術後, 著明な言語障害をきたした。意識レベルや知能は正常。自発語は fluent で多弁だが, 錯語の頻発のため, 情報量には乏しく, 聴覚理解は単語レベルで著明に障害されていた。本例の錯語は, 目標語との意味的・音韻的関連は不明瞭で, 1つの発語を契機として, これと同一カテゴリーに属する語彙が次々と形を変えて頻発することが特徴的であった。無関連錯語の出現には, 重篤な語義理解障害 (語音と語義の分離) と共に, 潜在的には語彙目録が保存されていることが重要であることを指摘した。また特徴的な錯語の連鎖は波多野(1986)のいう意味性変復パターンに相当すると考えられたが, Lhermitte (1973)の意味性保続とも捉えることが可能であると考えられ, その機序について若干の考察を加えた。