視野に入った文字を自動的に音読してしまう特異な現象を呈した症例を報告した。症例は80歳の右利き女性。発語不能と右不全片麻痺で発症。発症後約1ヵ月の転院時の言語所見では, 発動性の低下を前景に, きわめて乏しい自発語に対し復唱は良好で反響言語と理解力障害を認め, 混合型超皮質性失語と診断した。回復に伴い理解力が改善, 反響言語は減少し自発的語彙が増え超皮質性運動失語により近い病像に移行した。その回復過程で, 言語訓練中や検査時に, カレンダーや物品上の印刷文字などを前後の文脈と無関連に音読する現象がたびたび観察された。この音読現象は, 「強迫的音読現象」 (田丸ら1986)や「視覚性反響言語」 (波多野ら1987 a, 1987 b, 1988)に類似の現象と考えられた。本症例はMRIで確認された補足運動野を含む左前頭葉内側部に限局病変を有し, 同部位が本現象の発現に関与した可能性が示唆された。