視床, 被殻を中心とした大脳基底核に責任病巣を求めた視床失語, 被殻失語の存在が提唱され久しいが, 視床や被殻を失語症発生の責任病巣とすることには議論があり, 必ずしも定説を得ていない。今回, われわれは, CT および MRI 所見で, 被殻を含むレンズ核, または視床に主病巣を認めた右利き左半球損傷 55名において, 失語症状の発生および経過を検索し, 次のような結論を得た。 1. レンズ核に限局した病巣の症例では失語症状は残存しない。失語症状残存例では, 弓状束, 皮質下, 皮質への病巣の伸展や, 脳室拡大を伴っていた。このことからレンズ核は失語症の責任病巣とは考えにくい。 2. 視床損傷で長期経過後も, きわめて軽い言語機能の障害を認めることがあるが, これらは失語症状とは質の異なるもので, 注意の障害など他の要因により説明することが妥当と考える。 3. 被殻失語, 視床失語などの用語は, 再検討の必要があろう。