半球損傷例に出現する半側空間無視(Unilateral Spatial Neglect, USN)から方向性注意の半球機能差が推測されているが,脳梁離断症状としての USN の存在は最近まで受け入れられていなかった。しかしながら,脳梁の自然損傷例では既に少なくとも数例に右手における左 USN が記載されている。詳細な検索が行われた自験例YYにおいては,反応が左半球に依存する課題で顕著な左 USN が検出されたのみでなく,右半球に依存する課題で軽度右 USN が検出された。他方,明らかな USN は出現しないとされていた脳梁の外科的全切断例においても,一部の症例に右手における左 USN の記載がある。難治性てんかん患者では,幼少期からの脳損傷やてんかんの持続のために脳の機能差の形成が健常人より弱いことが推測されている。外科的全切断例の多くに USN が観察されないのはその反映と推察される。これらのことからわれわれは脳梁離断症状としての USN の存在を認めてよいと考えた。背景となる半球機能差としては, Mesulam の「右利き健常人では,左半球は主に右空間に,右半球は左空間に加えやや弱いながら右空間にも注意機能を持つ。」との説が有力である。