右半球の広範な病変により顕著な失文法を呈した症例の格助詞産出障害を,通常の動作絵説明課題 (課題 I ) と,語順を指定した文枠組みに従って動作絵を説明させる課題 (課題 II ) を用いて検討した。課題Iにおける自発的語順は,いわゆる「典型語順」と一致し,語順構成能力が比較的良好であることが示された。課題IIでは,「典型語順」の文枠組みに比べて,逆の語順や目的格だけを扱う枠組みで誤りが増加し,助詞選択に典型順序の語系列が利用されている可能性が示唆された。また誤反応には一定のパタンがみられ,典型語順に対応するもっともらしい助詞のつながりが残存していること,およびそれが誤って喚起される可能性が示唆された。以上から,本症例では残存する語順構成能力を利用して,ある程度の助詞の選択は可能であるが,正確に選択し不適切なものを抑制する機能に障害があると思われた。この機能は,本症例では右半球に偏在している可能性が考えられた。