呼称障害および漢字に選択的な失読失書を主徴とする単純ヘルペス脳炎後遺症,19歳の右利き女性例を報告した。発症4ヵ月後の100単語呼称検査の誤答率は86%で,著明な呼称障害が認められた。さらに,漢字にほぼ選択的な失読失書が認められ,発症14~15ヵ月後における漢字の音読の誤答率は57%,書き取りの誤答率は77%であった。呼称と漢字の読み書きの誤りには共通した特徴が認められ,意味性の語性錯語・錯読・錯書が多くみられた。また語義失語で特異的に生ずるとされる類音的錯書も認められた。病変は左側頭葉前端部・下側頭回前部~後部および右側頭葉前端部にみられ,呼称障害は左側頭葉下部前方部,漢字の読み書きの障害は左下側頭回後部の病変に関連して生じたと考えられた。これらから左側頭葉下部が語の意味機能に関与していることが示唆された。