助詞と述部の生成に障害を呈した伝導失語の症例を報告した。症例MKは59歳,男性,右利き。脳梗塞による左大脳半球病変で通常の伝導失語に加えて特異な文法障害を示した。MKの文法障害の特徴を情景画説明と動作絵説明の反応から分析した。その結果,1.生成された文は比較的長く,複雑な構造を持っていた。語順の混乱はなかった。 2.助詞の誤りは格助詞と副助詞「は」の置換で,自己修正行動を伴っていた。 3.述部では品詞の連鎖が短く,助動詞の使用は少なかった。述部の誤りは自己修正行動を伴い,その修正過程の特徴から,動詞の語幹からの音の置換,語幹以降の音の置換,文法表現内の誤り,に分類された。2の助詞の誤りは錯文法性錯語にあてはまると考えられた。1~3の結果よりMKでは文の構造的側面は保たれ,助詞と述部の生成の障害がみられることが示された。