英語圈でみられる surface dyslexia は,日本語では,読みにおいて仮名が漢字より良好であり,仮名の無意味綴りは読めるが漢字音読に障害が強いタイプが最も症候的に近いとされている (笹沼, 1987)。今回,このような症候を示す6症例の言語症状を分析し,認知モデルを用いてその障害部位の同定を試みた。その結果,意味システムに障害の強いタイプ,視覚入力辞書に障害の強いタイプ,発話表出辞書に障害の強いタイプの3つのタイプに分類が可能であり,仮名>漢字という同様の症候を呈する症例間に質的な差異を認めた。また,経過の遡及的な検討から,意味システムの障害の改善が得られてから視覚入力辞書の障害タイプあるいは発話表出辞書の障害タイプヘと分化されていくこと,また,視覚入力辞書・発話表出辞書両者間のタイプの移行もありうることが示唆された。