右半球病変により著明な失文法症状を呈した症例 (74歳,大卒の男性,右利き) の聴覚的文法理解を検討した。神経学的には左同名性半盲,左半身運動・感覚障害,神経心理学的には失語,左半側空間無視,構成障害が認められた。失文法症状は発話で明らかで,それ以外に復唱,音読,書字にも認められた。 ラジオの聴取に不便はなく聴覚的理解力の検査 (WAB ; トークンテスト) もほぼ満点であったにもかかわらず,われわれの考案した聴覚的文法理解 (主語判断課題) の成績は,同じ構文でも単語の意味的な関係により変動した。聴覚的理解が一見正常にみえるのは,本症例が蓋然性を手がかりにして単語の意味関係を理解することができるためであり,これは右半球病変による失文法症例の特徴である語彙能力が保持されていることと関係していることが推察された。さらに本症例では,一部の助詞 ( “で” など) の聴覚的理解が可能であった。これはこれらの助詞が,動詞の意味理解が可能であれば理解可能な助詞であるためと思われた。