重度失語症者2名に対して意思伝達能力の拡大を目的とした描画訓練を行った。症例1は具体名詞レベルの描画能力を獲得し,日常場面でもそれをある程度有効に用いることができたが,動作絵レベルの描画は獲得されなかった。症例1の動作絵の獲得困難は視空間的能力や視覚性記銘力の問題からは説明されず,その基底には複数の構成要素を統合する象徴機能の障害の存在が示唆された。症例2は動作絵の訓練による改善がみられ,その効果は非訓練項目へも般化したが,日常場面での描画はほとんどが具体名詞レベルのものに限られた。症例2の問題は,訓練場面で獲得された新しい伝達手段を,日常の自然な文脈の中において実際の伝達手段として認識して使用することの困難にあると考えられた。今後重度失語症者に対する描画訓練の可能性を追求するためには,描画のレベルに応じた患者の適応基準や日常場面における使用能力に焦点をあてた臨床研究の蓄積が必要と考えた。