われわれは先に,失語症者の助詞選択のストラテジーについて主に名詞と助詞の結合率という観点から検討し,名詞と助詞との音韻的/意味的結合頻度,動詞からみた格助詞の意味役割,文理解の障害などが助詞選択のストラテジーに影響を与えているとの知見を得た (小嶋ら1995)。今回は同一の基礎資料をもとに,さらに助詞と動詞の結合という観点から検討した。対象 (慢性期失語症者40例),基礎資料 (正常者の話し言葉の計量言語データ),問題文および出題方法 (「名詞 (助詞) 動詞」の2文節文に5者択一で助詞を挿入する方式) は前回の報告と同一である。結果,助詞と動詞の結合率は,名詞と助詞の結合率とは異なり,2文節文における助詞選択の難易度に影響を与えていなかった。また,失語症者における助詞の運用の障害とその訓練法を考える上で,現実の発話現象をもとに算出した「助詞と他の品詞との結合率」という概念を導入することの意義について論じた。