自験3例の検討から純粋失読の回復に関わる脳内機構について考察した。症例1は慢性期に 仮名 にほぼ選択的な障害を示した。症例2は慢性期に 漢字 にほぼ選択的な障害を示した。症例3は発症8年後には日常レベルでは読字障害が消失していた。これら3症例について慢性期に失読症状の詳細を検討した。症例1は,仮名音読で顕著な文字数効果を示したが,漢字音読では画数効果はみられなかった。また漢字の意味判断の成績はきわめて良好であった。症例2では,仮名音読で軽度ながら文字数効果がみられ,漢字音読では顕著な画数効果がみられた。症例3では,仮名音読・漢字音読ともに非失読対照例より反応時間が延長した。以上から純粋失読の回復には1)文字の運動覚性記憶を媒介とするなぞり読みによる代償(仮名に有効)と,意味系を媒介とする代償(漢字に有効)との2つがあると考えた。また日常的には失読が消失しても質的障害は残存するものと思われた。