左前頭前野領域の梗塞を有する症例の11年にわたる経過と症状を紹介した。発症1年目は発動性低下や易疲労性とともに, “頭の切り替えがうまくできない” “二つのことをしようとすると,片方のことが頭からなくなってしまう” “言葉がなかなか浮かんでこない” などの訴えがみられ, working memory の障害によるものと考えられた。発症4年目に簡便 Attention Process Training を10週間実施し,以後,発動性の改善と社会的外向が認められるようになる。発症11年目の現在,なお軽度の強迫傾向と, “頭の切り替えがうまくできない” “几帳面すぎる日課をたて,臨機応変ということがない” “自分の行動に関し何も決められないのは困る” などの訴えが認められる。本稿では,これらの訴えを “ひとつの基準 (セット) への固執” として解釈しうることを述べ,その要因としてセットの転換障害 (高次の保続) と情報の組織化の障害を指摘した。