Wernicke 野 (左上側頭回後部) の梗塞性病変により典型的 Wernicke 失語を呈した2症例の読字・書字障害を検討した。小学校1~3年生で学習する教育漢字一文字およびそれに対応する仮名語,ならびに仮名一文字 (清音46字) の音読と書き取り検査を施行した結果,2症例とも,漢字・仮名のいずれにおいても音読のほうが書き取りより良好であった。漢字・仮名語の音読・書き取りいずれにおいても,課題字 (正答字) と音韻が類似した誤りが多く認められた。これは, Wernicke 失語の口頭言語における特徴である “音韻の選択障害” と “音韻の聴覚的処理障害” が,文字言語においてもみられたものと考えられた。仮名一文字の書き取りにおいても2症例は類似した傾向を示し,正答字に余分な文字を付け加えて書く反応 (付加反応) が多くみられた。書き取りにおける付加反応は, Wernicke 失語の口頭言語での特徴である, “流暢な多弁傾向” を反映しているものと考えられた。