過去20年以上にわたり,失語患者の構文能力の障害に関しては,認知論的分析が進み,情報処理モデルに基づく障害の解析が行われてきた。特に,理解障害については,文の理解過程においてどのような処理単位 (統語構造の解析,意味の解読) が障害され,失語患者はどのようなルートで (助詞,語順,語の意味の各ルート) 文を理解するかという問題の解明が進んでいる。これらの研究の結果は,構文の治療計画を立てるうえでの重要な基盤になると考えられる。本論文では,最初に失語患者の構文能力障害に関するこれまでの研究を整理し,それらの知見に基づいて構文の治療計画を立てる方法を検討した。次いで, Broca 失語の失文法例に構文治療を行い,その訓練経過を分析した。本例は文の統語構造を解析することはできたが,意味を解読することが障害されていた。意味役割を文法的構成素 (主語) に関連づける過程を刺激する訓練を行うことにより,本例の文の理解,産生力は改善した。