従来の教科書とは異なる視点から考案した失語症言語治療マニュアルについて概説した。これまで本邦では失語症言語治療の論理的支柱として,アメリカで集大成された刺激法とプログラム学習法が主として紹介されてきた。それは現在でもわれわれ臨床家が治療を実践するうえでの理論的背景となっている。しかしこれらは治療における考え方の基本的枠組みを与えるものであり,個々のケースの障害構造に対応した具体的治療プランおよび治療用マテリアルまでを提供するものではない。本論文で紹介した治療マニュアルでは,治療方針の立て方から実際に治療に用いるべきマテリアルまでの「具体的」な情報を得ることができ,なおかつ利用法が簡便であることを目的とした。その特徴は,(1) 発話症状を重視する,(2) 症状観察のポイントを設定し症状を類型化する,(3) 各類型ごとの障害構造を解説し,対応する治療プランを提供する,(4) 刺激モダリティの選択を重視する,(5) パソコンを媒体として自動診断を行う,以上5点てある。