左後大脳動脈領域の脳梗塞で視覚失語を呈した症例における読みの能力を検討した。漢字,仮名ともに音読はほとんど不能であったが,漢字と絵カードとの matching が比較的良好であった。 (1) 文字の正誤判断, (2) 文字分類テストの成績は良好で,漢字,.仮名ともに文字形態記憶は保たれていた。 (3) 仮名文字列の lexical decision はまったく不能で,仮名文字列を全体として意味的処理を行う経路は障害されていると考えられた。(4) 漢字の odd word out test, (5) 漢字の分類テスト,(6) 漢字の連想テストの結果から,漢字の表す意味のカテゴリーや漢字同士の連合的および統合的関係の把握は良好であると考えられた。(7) 漢字の pointing では,選択枝が同一のカテゴリーに属する場合には成績が不良で,意味的に近縁な漢字の判別には障害があると考えられた。 以上の結果を,純粋失読における音読と読解の解離や視覚失語の視覚性呼称障害の成立機序との関連において考察した。