本研究は,日本語の単語の主観的表記頻度および適切性 (どの表記で見ることが多いか,またはどの表記が適切か) によって規定される語の表記型が失語症患者の単語音読にどのように影響するかを調べるものであった。非流暢型,流暢型10名ずつ計20名の失語症患者に,浮田ら(1991a) の分類に基づく漢字型の単語,ひらがな型の単語15語ずつを漢字表記およびひらがな表記したもの (計60語) を提示し,できるだけはやく音読するように求めた。その結果漢字型の語は漢字表記されたときのほうが,ひらがな型の語はひらがな表記されたときのほうがはやく読め,さらにひらがな表記ではひらがな型の語のほうが漢字型の語よりも音読に要する時間が短かった。この結果は,表記そのものの違いよりも,表記頻度や適切性が単語の音読という処理に効果を及ぼすことを端的に示すものと考えられ,表記にかかわる研究においてこれらの要因を考慮することの重要性が提起された。