ワーキングメモリは,課題の遂行と情報の保存が並列的に処理されるような過程において,その制御に関係していると考えられる。言語の情報処理においても,読みや聴き取りにより一時的に処理した内容を活性化状態のまま並列的に保持しつつ,次の情報処理に対処するということが重要である。本稿では,聴き取りの過程での処理と保存関係を想定して開発されたリスニングスパンテストを用いて,ワーキングメモリの脳内機構を探索するため,脳磁場計測 (MEG) を行った。結果,ワーキングメモリの負荷が大きくなると,脳磁場のアルファ波ピークが高い周波数の帯域に出現する傾向がみられた。このようなアルファ波ピーク周波数の変化傾向は,ワーキングメモリ容量の個人差により影響を受けた。さらにこの傾向は,主に左半球の側頭部,前頭部位に認められた。そこで左半球の側頭部,前頭部位にかけて,負荷に伴う脳内処理の変化が生起したことが推察できた。