作業記憶の下位システムである音韻性 (構音性) ループは,言語性の短期記憶 (STM) から発展した概念であり,内容的にはほぼ同一である。心理学領域,神経心理学領域のさまざまな知見から,音韻性ループの細分化の必要性が生じ,Vallerらは入力側の要素として音韻性短期貯蔵庫,出力側の要素として音韻性出力バッファーをそのモデルのなかに加えた。主として伝導失語からなる脳損傷例のdigit spanの結果から,このモデルの神経解剖学的基盤を検討した。音韻性短期貯蔵庫は上側頭回に,音韻性出力バッファーは中心前回に,音韻性ループは両者を結ぶ頭頂葉に,おのおの対応するとの仮説を提示した。今後は,健常者を対象としたPET賦活研究やfunctional MRIによる知見の集積が期待され,これらの研究と病巣研究が互いの欠点を補完しあうことが期待される。