今回著者は両側前頭葉梗塞後に,視野障害・運動麻痺・失調・視覚運動失調・感覚障害がなく,数字順唱・Tapping spanが保たれているにもかかわらず,電話がかけられなくなった症例を経験し,その症状を詳細に検討した。本症例の症状の本質は,ある程度の負荷の存在下における異なるモードへの情報変換過程の障害であると考えられた。この症状の説明にBaddeleyらによるWorking memoryモデルを適用した。すなわち,ある程度正常に機能している2つの補助システム (phonological loop/visuospatial sketchpad) と,障害された中央処理装置 (central executive) という考えで本症例の症状は説明可能であった。Central executiveの機能の1つとして,負荷存在下における異なるモードへの情報変換が想定され,また解剖学的には前頭前野の関連が示唆された。