失語症者の社会適応について,55名 (Wernicke失語23,Broca失語17,失名詞失語15) の慢性期失語症者を対象とし,患者個人の要因に注目して検討した。適応良好を患者,家族ともに困っていない状態と定義した。その結果,適応の良否とSLTA総得点,およびCADL得点との間には一定の関係を認めなかった。本人,および家族に対する面接と質問紙による調査から,適応良好な症例を特徴づける要因として,障害に対する本人の理解,病前性格,家族の理解,脳損傷による器質的人格変化の4つが抽出された。自己の障害を理解している適応良好例では病前性格が循環気質である症例が多く,一方,自己の障害に対する理解が不十分で適応良好な例は,家族が患者の状況をよく理解している症例であり,また器質的人格変化が抑うつなどの反応を惹起せず,適応良好となった症例も認められた。言語訓練の実施に際して言語機能の重症度のみならず,個人にかかわる要因の検討も重要である。