左一側性病変で聴覚性失認を呈した症例を報告した。症例は93歳の右利き女性で,X線CT,MRIで左上側頭回に梗塞性病変が明らかであり,両側の側脳室後角周囲に異常所見 (X線CTで脳室周囲低吸収域,MRIT2強調画像・プロトン強調画像で高信号域) が認められた。意識は清明で痴呆はなく,聴覚性失認以外に神経学的な異常は認められない。言語音,環境音,音楽のすべてに重篤な聴覚性認知障害がみられ,軽度の感覚性失語,表出性の失音楽を随伴していた。聴覚性失認は通常両側の聴覚野病変で生ずるとされ,左一側性病変例はきわめてまれである。本症例の症候は,左聴覚野からWernicke野への連合線維の障害に加えて,言語音・環境音を伝える右半球からの交連線維が左半球内で離断されたために生じた可能性とともに,左右半球の側脳室後角周囲の異常が聴覚情報の処理を妨げている可能性も考えられた。