左前頭葉後下部 (左下前頭回後部と中前頭回後部,中心前回下部) のほぼ同一の部位に限局した梗塞巣を持ちながら,発話流暢性や復唱などの点で異なった失語像を示した2症例を報告する。2症例とも発症直後は無言状態であったが,症例1は発症6日後には復唱不良な非流暢型失語を呈し,症例2は発症20日後には軽度の超皮質性感覚失語に移行した。発症早期に異なった失語像が出現した理由として,一過性に起こった病変部周囲の機能的障害が考えられた。また,中心前回下部への侵襲の微妙な相違も2症例の構音および復唱の障害の有無と関連すると推測された。また,症例2は文の復唱は良好にもかかわらず,数唱は悪く,このことから文の復唱と数唱の2つのルートが乖離して存在することが示唆された。さらに,症例1の失語像も発症後約半年には流暢型に改善したことから,左前頭葉後下部の限局病変で非流暢型失語が出現しても流暢型失語に移行すると考えられた。