右辺縁葉後端部(retrosplenial region)の皮質下出血で,地誌的障害の出現をみた症例を経験した。53歳の男性,右利き。ある日急に道に迷い,地誌的障害を呈した。道順障害が著明で目的とする場所に到達できず,自宅や自室に戻ることもできなかった。また,家の間取りや地図などの口述や図示ができず,地図上の主要な都市名の記入も障害されていた。場所や地図に関する以外の記憶や見当識に障害はなかった。一方,視野障害や左半側空間無視はなく,熟知した家屋や街並の視覚的認知は正常であった。画像診断で右辺縁葉後端部に皮質下出血を確認した。地誌的障害は徐々に改善し,家の間取りや自宅周辺の地図の図示や口述は可能となったが,生まれ育った場所でも1人では外出できない。近年,右辺縁葉後端部の障害で地誌的障害を呈する症例の報告が続いており,本症の責任病巣を論じるとき,右頭頂葉内側面~辺縁葉後端部の障害が重要であると考えられる。