エピソード記憶と意味記憶間の区分に焦点を当て,記憶システムを区分する研究アプローチの意義を論じた。まず,記憶モデルの中での両記憶の位置づけを検討した。近年の記憶モデルにおいては,長期記憶は宣言記憶と手続き記憶に二分され,エピソード記憶と意味記憶は宣言記憶を下位区分する概念であるとみなされている。しかし,手続き記憶とエピソード記憶,意味記憶間の関係,さらに,潜在/顕在記憶の位置づけに関しては研究者間で食い違いが認められることを明らかにした。次に,エピソード記憶と意味記憶間の区分をめぐる論点について展望した。両記憶をシステムの相違とみなすか,あるいは,想起モードの相違とみなすかに関してはいまだに結論が出ていないこと,事象間の階層的包含関係を的確に表現する概念としてエピソード記憶ではなく自伝的記憶が用いられるようになったこと,エピソード記憶を経由しなくても意味記憶内での知識獲得が起こりうることを論じた。