失語症 31例の音の分離能力をクリック音融合閾 (CFT) 検査で測定し,聴覚的言語理解の重症度と比較した。統制群は右半球損傷 (RHL) 15例,健常者 13名であった。失語症例の CFT 検査の成績は健常者より有意に低下していたが,RHL とは差がなかった。失語症例では CFT と,聴覚的言語理解の重症度 (ARS) の間に相関がなかった。左の内側膝状体から聴放線起始部の損傷,および左の横側頭回やこれに隣接する第一側頭回の上下に広い損傷では両耳同時呈示と右耳単独呈示で CFT の障害を生じていた。一方,左の聴放線終末部の損傷,および左の横側頭回や隣接する第一側頭回の部分的損傷では右耳単独呈示でのみ CFT の障害を生じる可能性が示唆された。失語症例の単語の聴覚的理解力は聴覚野,聴覚連合野の音の分離と,Wernicke領野の語音認知の両方に依存するが,後者の影響が著しく大きいと推察された。もう1つの音の分離能力の検査法とされているクリック音計数検査の成績は,むしろ前頭葉損傷例で低下していた。