近年,相貌失認はその非均質性が指摘されていて,視覚性物体失認同様,相貌失認も統覚型と連合型の2型に分類され論じられる。われわれは統覚型相貌失認と思われる症例を報告した。本例では右後頭葉一側性損傷時には相貌失認は出現しなかったが,10ヵ月後左後頭葉のほぼ対称部位に同様の脳内出血を起こした後,著明な相貌失認と大脳性色覚喪失が出現した。本例の相貌失認の症候学的特徴は次のとおりである。 (1) 熟知相貌に対する認知障害は重度かつ持続的。 (2) 熟知相貌に対するcovert認知は認められない。 (3) 連合型では視覚対象の認識障害が顔特異性face-specificであるが,本症例では顔以外の視覚対象に対するクラス内認識も決してよくない。 (4) 未知相貌の弁別・学習障害は連合型に比し高度。 (5) 視知覚障害は連合型より高度であった。 標準高次視知覚検査 (編日本失語症学会) の成績結果からも,上記の特徴をとらえることは可能で,本検査法を用いて統覚型相貌失認と連合型相貌失認とを峻別することも十分可能であると思われた。