著明な呼称障害を呈したにもかかわらず,改善過程で書称を頻繁に用い,呼称に結びつけた感覚性失語の1例を経験した。画像診断により左の側頭葉から頭頂葉にかけての皮質,および皮質下に広がる脳梗塞が確認された。神経心理学的には発話は流暢であったが,錯語が多く,聴覚的理解は著明に障害されていた。物品の呼称や復唱,音読,書字も重度に障害されていた。単語レベルでの読みの理解は比較的保たれていた。訓練開始後,約2ヵ月経過したころから自発的な書称を手がかりとした呼称が目立つようになった。それに伴い呼称が困難なものでも書称することで呼称が可能となる場面が観察された。呼称障害は,意味処理から音声化されるまでの経路が障害されて起こると考えられている。本例の場合,その経路が障害されたために,書称という非音声的な手段を用いて呼称が行われたと考えた。