前交通動脈瘤破裂の手術後に著明な健忘症状と性格変化を呈した1例を報告した。即時記憶や知的能力は保たれていたが,見当識障害,重篤な前向健忘,作話傾向,多弁多幸を認めた。本例では,自伝的にも社会的にも逆向健忘を認めなかったが,過去の有名人の名前を想起することが困難であった。人名の語想起障害の責任病巣として左側頭極が示唆されており,同部位と前脳基底部領域あるいは前頭葉底面は鉤状束で結ばれていることから,本例の特異性もこの線維連絡の障害と関連するものと考えられた。