仮名1文字と仮名単語の音読は良好であるにもかかわらず,仮名無意味綴りの音読に障害を示す phonological dyslexia 例を報告し,その仮名音読過程について考察した。また,本例は回復初期に漢字の意味性錯読が著明であったことから,deep dyslexia から回復して phonological dyslexia に移行したことが示唆された。従来の二重回路モデルにおいては,無意味綴りの音読障害は grapheme-phoneme conversion (GPC) が機能しないためととらえられていたが,本例は仮名1文字や pseudoword の音読は良好であることから GPC は保たれていると考えられた。本例は無意味綴りを音読する際に逐字読みをせず,有意味語を読むようにひとまとまりの語として音読しようとすることから, GPC 経路を仮定しない triangle model (Patterson et al. 1996,Sasanuma et al. 1996) のほうが,本例の失読症状を説明するには妥当と思われた。