いわゆる失語を伴うことなく,言語性短期記憶に選択的な障害を呈した症例を報告した。症例は21歳の右利き女性。脳動静脈奇形による脳出血で発症した。発症初期より,発話は流暢で錯語はなく,喚語障害,理解障害,文法障害を認めなかった。数唱・無意味音節の復唱に障害が認められたが,文の復唱は保たれていた。障害は言語性短期記憶にのみ認められ,非言語性短期記憶などの他の記憶検査には異常はなかった。また知能も良好であった。同時に対照症例として,発症時伝導失語を呈し,数唱・復唱の障害が選択的に残存した症例を提示した。この対照症例では,無意味音節とともに文の復唱においても障害が認められた。自験2例および既報告の「言語性短期記憶の選択的障害症例」とを比較した。同等の数唱の低下を示す3者で復唱や理解に明らかな差異が認められた。これらは,失語症状の有無・失語の性状や重症度に起因すると考えられた。