言語性の短期記憶と長期記憶の障害を呈する左側頭頭頂葉病変と左頭頂葉上部病変の2症例を検討した。両症例に実施した視覚呈示条件と聴覚呈示条件の短期記憶課題では,左側頭頭頂葉病変例では呈示条件間に有意な差は認められなかったが,左頭頂葉上部病変例では視覚呈示条件が聴覚呈示条件に比べて有意に低下していた。この結果を相馬 (1997) が提唱した音韻性ループの脳内モデルをもとに考察した。その結果,モデルを一部改変することにより,左側頭頭頂葉病変例ではリハーサルの過程,左頭頂葉上部病変例ではリハーサルの過程と音韻性符号化から音韻性出力バッファーへ至る過程が障害されていたと考えられた。また両症例で認められた言語性の長期記憶の障害に言語性 (音韻性) の短期記憶の障害が関与していると考えられた。