Damasioら (1985,1989) は前脳基底部性健忘症の特徴として時間的順序の記憶障害を上げている。本研究はこの障害が前脳基底部性健忘に特有のものなのか否か検討するために,前脳基底部性健忘症例を含む各種健忘症例を対象に時間的順序の記憶課題を実施し比較した。結果, (1) 前脳基底部性健忘症例の再認成績は症例によって異なっていた。 (2) コルサコフ症候群症例においても順序判断の成績の低下が認められた。 (3) 再認成績に関係なく,前脳基底部性健忘症例の順序判断の成績は症例によって異なっていた。 (4) 左脳梁膨大後域病変において明らかな順序判断の障害は認められなかった。これらの結果より,時間的順序判断の障害が前脳基底部性健忘症例に特有の障害であるとはいえないと考えられた。また時間的順序判断の障害は眼窩底面への病巣の広がりが関与している可能性が考えられた。