日本語における表層失読 (surface dyslexia : SD) と考えられる3例を報告した。症例1はAlzheimer型痴呆,症例2と症例3は意味痴呆 (semantic dementia) の患者である。音読検査の材料には,漢字2~3文字から成る103語,その仮名表記語,仮名非語30語を用いた。漢字語の属性は,発音頻度 (一貫性) によって2群に,親近性によって4群に分けられた。前者は漢和辞典に記載された全熟語の中での当該発音を持つ語の割合によって決定され,後者は健常高齢者へのアンケート調査によって調べられた。3例はともに, (1) 仮名語および仮名非語の音読は良好で, (2) 漢字語の音読は不良かつ, (3) 誤りの多くは熟語中の各漢字に文字の別の発音を当てはめるものであった。特に症例2と症例3は典型的SDと考えられた。この2例は漢字語の音読において,英語例と同じく著明な一貫性効果と親近性効果を示した。ただし漢字語において無反応の誤りも多く,これは日本語単語認知の特徴を反映している可能性があると考えた。