自然言語音をコンピュータ上で加工して音節の弁別検査と子音の弁別検査を作成し,失語症 21例および健常者 18名に実施した。被験者は対になった音を聞いて同じか異なるか答えた。失語症患者は音節の弁別の障害を呈していた。しかし子音の弁別は比較的保たれており,特に,健側の左耳に子音を提示すると健常者と差がなかった。音節の弁別の成績は単語の理解力 (ARS) と,子音の弁別は音の分離能力 (クリック音融合閾) と有意な相関があった。言語音を有声・無声,非鼻音・鼻音,調音点,調音方法という座標軸で分類する方法が妥当かどうかは議論の余地があろうが,失語症例の反応を因子分析した結果,人間の脳内では実際にこのような座標軸で,子音の音響的特徴の抽出が行われている可能性が示された。言語音の音響的特徴をいかに妥当に抽出したとしても,感覚性言語領野の音素の記憶系との照合が障害されると,言語音の同定はできないと考えられた。