選択的に数唱の低下を呈する2症例と健常対照群を対象として,Baddeley の working memory 理論に即した実験を行った結果を報告した。2症例は先の論文 (水田 1999) で報告した,いわゆる失語症状を伴うことなく選択的に数唱の低下を呈したMOと,従来より報告されている「言語 (音韻) 性短期記憶障害の純粋例」 (Vallarら 1995,Shalliceら 1990) とみなしうる TU である。実験の結果,2例は健常対照群と同様,central executive の機能は保たれていることが示唆された。発語を伴う課題では,保持に有利な課題であっても TU には低下が認められ,対照群および MO とは異なった。音読を課す課題では,MO で対照群に比し音読時間の延長が認められた。2例の発語を伴う課題で認められた差異の検討から,TU を Vallar らが指摘するような phonological short-term store に限局した障害とみなすことはできないことを示した。また,リハーサルの検討から,音韻ループに関して若干の問題点を指摘した。