全身性エリテマトーデス (SLE) と抗リン脂質抗体症候群 (APS) により,背側視覚系の障害を中核とした局所認知障害を呈し,痴呆に至った50歳女性例を報告した。1993年,SLE・APS と確定診断され,1996年にかけて Balint症候群,Gerstmann症候群,着衣・構成障害,観念運動性・観念性失行,喚語困難,左側無視,実行機能障害,le signe de la main etrangere”,性格変化が順次出現した。MRI上,進行性脳萎縮と白質病変を認めたが,局所皮質病変はなかった。SPECT上,進行性びまん性取り込み低下を認め,初期には後方分水嶺,進行期には前後方分水嶺にて高度であった。免疫学的異常を基盤にして慢性進行性の微小血管障害と微小梗塞が生じ,それらが背側視覚系を含む両側頭頂後頭葉にてもっとも顕著であったと推測された。さらに,背側視覚系には解剖学的に3大脳動脈間に形成される後方分水嶺,中でも皮質枝と深部穿通枝の間に形成される血行力学的終末領域を通過する神経線維が関与する可能性を指摘した。