失語症状の長期経過を検討する研究の一環として,失語症状の経時的推移を病巣群別および発症年齢別に検討した。対象は右利きでかつ左大脳半球一側に限局病巣を持つ失語症者 132名。病巣は CT または MRI で確認し,失語症状の推移は標準失語症検査 (SLTA) の評価点 (10点満点) を指標にして比較検討した。その結果,次のような知見が得られた。中心溝より前方に病巣が限局する症例や基底核限局病巣例,また視床限局病巣の失語症状は発症後早期に急速に回復する。また後方限局病巣や,中大脳動脈支配領域ほぼ全域損傷の広範病巣例,基底核伸展型病巣例では,到達レベルに差異はあるが,3年以上の長期にわたり回復を示す症例が少なくない。失語症状は長期間回復する可能性があり,正しい予後予測のもとに,粘り強い訓練の継続が必要である。また多くの要因が予後にかかわるため,発症からの日数などで訓練効果の有無を断じることは避けなければならない。