左半球の脳梗塞後に,視覚失語,触覚失語,そして味覚失語を呈した症例を報告した。MRI では2つの高信号域が認められた。1つは,左角回皮質下にあり,脳梁膨大部からの脳梁放線を含んでいた。もう1つは,左前頭葉皮質下に位置していた。視覚失語,触覚失語のメカニズムは,視覚および触覚の認知系と言語系との離断として説明可能であった。味覚失語もまた,味覚認知系と言語系との離断で説明可能であった。 本例に 10カテゴリーの視覚呼称課題を行った。その結果,他のカテゴリーの対象物よりも身体部位と衣類のカテゴリーの成績が有意に良好であった。身体部位の呼称は,他のカテゴリーとは異なる経路,すなわち,身体図式と言語系とを結ぶ経路によって行われていると考えられた。本例はこの経路が保たれていたために身体部位の呼称が可能であったと考えられた。