最近,Haxby ら (2000) は顔知覚の分散神経機構モデルを提案し,その中で顔の恒常的な情報の処理機構と可変な情報の処理機構を区別した。顔の恒常的な情報は人物同定に必要な情報であり,視線や表情のような可変情報はコミュニケーションを促進する情報である。本稿は可変情報に焦点を当て,表情と視線方向の相互作用を検討する心理学研究を報告した。実験によって (1) 視線手がかりによる自動的な注意シフトは情動を表出した表情によって影響を受ける, (2) 情動を表出した表情の知覚は視線方向によって影響を受け,特に視線が観察者の方向に向いているときに知覚精度が高い,ということが明らかになった。これらの事実は,われわれの神経機構が他者からの社会的メッセージをきわめて効果的に検出するしくみを有していることを示唆している。また,これらの研究から,神経機構に関する知見と心理学の行動実験を関連づけることはきわめて有効なアプローチとなることが示された。