「聴覚的には理解できなかった語を正確に復唱でき,書いて示されるとすぐに理解でき,聴覚的 lexical decision が可能」とされ るFranklin (1989) の word-meaning deafness の定義を十分に満たす,31歳の右手利き女性を報告した。会話中突然に簡単な語でも「えっ」と聞き返すことがあり,理解できなかった語を自分で何回も繰り返し言って理解しようと努めた。その場合に相手が文字を示せばたちどころに理解したし,他の語彙に言い換えてやってもすぐに理解できた。単音の復唱は 97%正答,lexical decision は初期にでも 78/80正答していた。非単語の復唱は 4音節が 4/5系列正答できた。書取における聴覚的理解で頻度効果は認めず,心像性効果のみ認めた。以上から本例は, “音が正確に知覚され—言語音として正しく分析・認知され—その連なりが意味のある単語だと認知されながら—意味と結びつかない” 状態を示す word-meaning deafness であると考えた。