高次脳機能障害 (higher brain dysfunction) いう語は用法に少なからぬ混乱がみられるのが現状である。しかし,少なくともこの概念は脳損傷に伴う認知行動障害を表す包括的な呼称であり,特定の病因 (例 : 頭部外傷) や特定の症状 (例 : 遂行機能障害) をさすものではない。したがって,同じく高次脳機能障害といっても,その様態はむしろ非常に広範囲にわたることを念頭に置くべきであろう。精神科を受診してくる高次脳機能障害の患者を,「主観的障害」を呈する場合,「第三者の障害」を呈する場合,身体障害が受けられず精神障害の認定を目的とする場合の三様に分けて概説した。いずれの場合も,精神科的にも障害を的確にとらえることが難しく,一方,各科の医師や他職種が学際的に協調して,患者に適した障害評価や医療サービスの場を提供していくことが重要であると考えられた。今後,このような職種を超えた連携や情報交換において,失語症学会や関連専門学会の果たす役割は大きいと思われる。