視覚失認を理解するにあたっては,視覚情報処理と認知のメカニズムに関するモデルが必要である。しかし,Lissauer が提唱した視覚失認に対する古典的な二分法理論は,視覚認知の神経機構における今日的な知見からみて,必ずしも適切とはいえない。すなわち,視覚認知の神経機構においては,モジュール構造による並列処理が営まれているとする考えが一般的であり,統覚と連合という 2つの過程の直列的なモデルは実際とは異なっている。視覚失認の臨床的な観察においては,このような点をよく理解し,視覚認知機構の障害に対するモジュール的な分析がなされる必要があると考えられる。