語の理解障害を伴なった anomia の一例について報告した.症状は,一年以上にわたって安定したものであった.患者は63才,右利き,左側頭葉出血で発症し Wernicke 失語を生じたが,次第に軽快し,発症一年後には以下の特徴を残すのみとなった.(1) 自発語における喚語困難,(2) カテゴリー間で差の明らかでない呼称障害,(3) 語の理解の障害もカテゴリー間で差はなかったが,意味的に似通った語との間で混乱がみられた,(4) 呼称を誤る語と理解できない語は,テスト場面で一定でなかった. 本例の選択的な語の操作の障害について,(i) 語の semantic memory 構造の崩壊, (ii) word store への接近過程での障害,の二つの発症メカニズムが考えられた. また,語彙と統語の操作は,ある程度分離可能な心理過程てあり,語の操作障害は左側頭葉病巣と何らかの関連性を持つことが示唆された.