複雑刺激により発現するいわゆる触覚性消去現象を呈した脳梗塞例8例につき,その責任病巣を消去現象の発現機制との関連において検討した.方法は触覚素材の内容の弁別に関わる複雑課題検査によった.その結果,知覚レベルでの触覚刺激間の競合により生じる消去現象は対側の下頭頂小葉を含む病変において発現した.一方,認知レベルでの刺激間の競合により生じる消去現象は, 頭頂葉病変以外に,前頭葉病変,側頭—後頭葉内側病変などでもみられ,いずれも主病変と対側に発現した.以上より,いわゆる触覚性消去現象は,2つの異なる消去現象の発現レベルによってその責任病巣も異なると考えられた.本結果から,Schwartz らの報告した前頭葉病変で生じる左側の触覚性消去現象は, 認知レベルでの刺激間競合により生じている可能性があり,彼らの離断説類似の仮説の矛盾点を指摘した.