顔面の系列動作における意図性保続について検討を加えた.顔面の系列動作テストの結果,口腔顔面失行17例のうち 10 例に運動の意図性保続が観察された.意図性保続は反応の様式から,即時型および遅延型の2種類に分類することが可能であった.また,口腔顔面失行を流暢型失語を伴う群と非流暢型失語を伴う群に分類し,両群にみられる意図性保続の性状を比較したが,即時型および遅延型の保続の出現頻度には明かな差異は認められなかった.さらに, 呼称課題における言語性保続と顔面の系列動作で観察された運動保続との間には有意な連関は認められなかった. CT 上の病変は左前頭葉, 島, 頭頂葉および側頭葉にみられたが, 前頭葉病変を伴わない病変のみでも意図性保続け観察された.顔面の系列動作における意図性保続にも言語性の保続と同様に遅延型の保続が観察されたことより, その成立の機序としては運動の記憶痕跡の抑制説が最も妥当な仮説であると考えられた.