[目的]カンボジアにおいて、女性の健康問題の背景にある要因やこれまでの対策等について検討し、紛争が及ぼした影響と、女性の健康を改善する方策について考察することを目的とした。 [方法]カンボジア政府保健省や国際開発機関等の公表資料はじめ、文献・資料を幅広く収集して、歴史的背景と保健医療状況について検討した。現地調査では、保健省、国際開発機関、首都と近郊農村部の病院等を訪問して情報収集した。都市部と農村部にて、住民女性、保健医療従事者、既婚男性に半構成法による面接調査と、住民女性のフォーカス・グループ・ディスカッション(FGD)を実施し、紛争前後の生活状況・女性の健康問題とその要因、医療サービスの状況、紛争と健康の関係等についての意見を聞いた。 [結果と考察]長期間に及んだカンボジアの紛争について分析すると、1970年代後半のポル・ポト政権時代に、人々が強制移動・重労働という苛酷な体験をし、知識人はじめ多数が虐殺されたことがきわめて特徴的である。その結果、人々に身体的・精神的後遺症を残したのみならず、医師はじめ人材の絶対的不足に陥り、保健医療サービス再建が妨げられたと考えられる。1990年代になると、国際社会からの本格的支援を得て、保健医療サービスも著しく改善した。他方、国内格差は拡大し、農村部や都市スラム等では、基本的保健医療サービスも十分行き届いていない。 女性に対する調査では、ほぼ全員が現在健康に問題があると語ったが、貧困に苦しむ人、家庭に問題を抱える人ほど、不定愁訴的症状を含め健康問題の訴えは強く、また、過去の紛争の記憶を客観的に語れない傾向にあった。これは、紛争による心的外傷が癒されていないため、生活の再建が遅れて貧困と家庭の不安定に苦しむようになったとも考えられる。女性たちは、紛争により健康が脅かされること、貧困と不健康が悪循環することを認識していた。女性たちは地域社会の再生に重要な役割を果たせると考えられ、潜在能力を生かす機会を提供していくことが重要であろう。 [結論]今後、カンボジアでは、紛争後復興の段階から進んで、長期的開発支援と統合した形で、農村部や都市貧困層に焦点をあて、保健医療等の基本的社会サービスを充足させることに重点を置くべきと考えられる。また、心の傷を癒して生活を再建できるよう精神保健面の支援を充実させる必要がある。