目的 災害体験はそれ自身による心理的影響のみならず、慣れ親しんできた環境の喪失等による二次的な影響ももたらす。特に青少年では、心的外傷後、高頻度でPTSD(Post-traumatic Stress Disorder)を起こし、その影響がより長期化することも知られている。本研究では、ソロモン諸島の民族紛争の終結後5年経過した時点の青少年において、PTSDの遷延化がどの程度認められるかを把握し、その要因について検討することを目的とした。 方法 2006年、ガダルカナル島の2地域とマライタ島において高校生等199名を対象に半構造的インタビューを行った。質問項目は対象者の基本的属性、紛争の被害状況、紛争に関連する感情であり、調査時点でのPTSD症状に関してはIES-R(Impact of Event Scale Revised)を使用した。更に対象者を、「紛争発生時住んでいた場所」により3地域(A、B、C)に分類し、IES-R成績とその要因について検討した。Aは紛争の被害が甚大であった地域、BはAに準ずる被害を受けた地域、Cはガダルカナル島から多数の避難民が流入したマライタ島である。 結果 物理的被害が甚大であった2地域(A、B)では、紛争に関連する感情が有意に認められた。特にAでは、男女間における被害の程度に差はないが、紛争に関連する感情は男子に有意に出現し、IES-R得点も男子に有意に高値であった。IES-R得点はそれぞれ33.4点(A)、30.0点(B)、34.5点(C)であり地域差は認められないが、他の災害時における得点と比較し高値を示した。 結論 民族紛争後5年経過した時点におけるIES-R得点は3地域共高値を示し、ソロモン諸島の青少年におけるPTSDの遷延化が示唆された。PTSDの遷延化に影響を及ぼす要因として、紛争に対する感情の強さ、家族及び知人との別離と長期的な避難所生活の経験、及び性差が考えられた。